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東京高等裁判所 昭和59年(ラ)374号 決定 1985年6月03日

抗告人 品川信用組合

右代表者代表理事 小杉誠

右代理人弁護士 小野孝徳

相手方 金光雅彦こと 金雅彦

主文

原決定を取り消す。

本件競売物件の金光雅彦こと金雅彦に対する売却を不許可とする。

理由

一  本件抗告の理由は、別紙記載のとおりであるところ、一件記録によると次の事実が認められる。

1  原審裁判所が昭和五八年一〇月一一日に本件建物につき競売開始決定をし、評価人の昭和五九年三月九日付け評価書(補充)に基づき、本件建物敷地の借地権が敷地の抵当権に対抗できないことを前提としてこれを物件明細書に明らかにした上、右評価書の評価額二九二六万円(うち借地権価格については、抵当権に対抗できる場合の価格四四九二万円から五〇パーセントを減じた二二四六万円)を本件建物の最低売却価額として期間入札に付し、所要の手続を経て昭和五九年七月四日に最高価買受けの申出をした金雅彦(本件相手方)に対し本件建物の売却を許可したこと。

2  本件建物は、品川区小山台一丁目一四七番一宅地二九四一・九八平方メートルの林所有地の一部である本件借地三四一・四四平方メートルのうちの東側にあり、借地人である金晩植により当初木造瓦葺二階建、床面積一、二階とも九坪(二九・七五平方メートル)の居宅として建築され、昭和四五年一二月二〇日一部取毀変更、増築により木造瓦葺陸屋根二階建、床面積一階一一五・二二平方メートル、二階一〇〇・七〇平方メートルの店舗・居宅となったこと、建築当初の建物については遅くとも昭和四〇年九月一日以前に昭和三五年法律第一四号の不動産登記法の一部改正に基づき所有者を金晩植とする建物の表示の登記がされていたこと、昭和五三年七月一七日に右増築等を原因とする建物の表示変更の登記がされ、同月二四日に所有者を金晩植とする所有権保存登記がされたこと及び本件建物の敷地部分は、本件借地のうち東側約一五五平方メートルであること。

3  本件借地内には東側地上の本件建物のほか、西側約一八六・四四平方メートル地上に、金晩植が昭和三三年四月ころ建築し、同月二四日に所有権保存登記をした件外建物があること及び右両建物の存在することにより林所有地内における本件借地部分の範囲は明確に特定できること。

4  本件借地を含む林所有地には、根抵当権者株式会社富士銀行のため、昭和四六年五月一二日東京法務局品川出張所受付第一〇七三九号、債権極度額一五〇〇万円の順位一番の根抵当権設定登記及び同年一一月一〇日同出張所受付第二八〇九三号、債権極度額二〇〇〇万円の順位二番の根抵当権設定登記がされていること。

二  右の事実によれば、本件借地三四一・四四平方メートルは同一借地人により一括借地されたものであり、一筆の林所有地の一部についてのものであるが借地部分の範囲が明確に特定できるものであるから、建物保護法第一条の法意に徴すれば、かかる場合においてもいずれか一棟の建物について所有権保存登記がされていれば、借地部分全体についてその対抗力が生じていると解するのが相当であり、また表示の登記も第三者に借地権の存在を警告する機能が認められる以上、右法条にいう「登記シタル建物ヲ有スルトキ」に当たると解すべきところ、林所有地に対する根抵当権設定登記より先に本件建物(増築等前のもの)の表示の登記及び件外建物の所有権保存登記がされていることは前認定のとおりであるから、いずれの見地からしても本件建物敷地の借地権は、林所有地の抵当権に対抗できるものといわなければならない。

三  以上によれば、原決定に民事執行法第七一条第六号の事由があることが明らかであるから、原決定を取り消し、本件売却を不許可とすることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 賀集唱 裁判官 梅田晴亮 上野精)

<以下省略>

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